宮島の老舗旅館『岩惣』の7代目女将・岩村玉希氏が受け継ぐ日本の文化と歴史

CULTURE

世界遺産・日本三景の島、宮島。神の島とも呼ばれるこの島に、1854年より続く老舗旅館『岩惣』がある。その宿泊履歴には、伊藤博文や夏目漱石といった歴史的人物から、昭和天皇をはじめとする皇族方、そして諸外国からもデンマーク皇太子やシンガポール大統領など国賓級の面々が名を連ねる。2008年のG8議長サミットのゲスト宿泊地や、2016年のG7外相会合の会食会議場に選ばれたことは記憶に新しい。

江戸末期より歴史を見つめてきた『岩惣』は、国際社会において今や迎賓館としての役割を担う宿となった。そんな『岩惣』の看板を背負う7代目女将・岩村玉希氏にお話を伺った。

Text by MASUBE Sachi

Video & Photographs by MORISHITA Shozo

Composed by YAMAUCHI Yui

岩惣のはじまり

岩惣の起源は江戸末期の1854年(安政元年)にまで遡る。1854年といえば、歴史では2度目のペリー来航により日米和親条約が結ばれた年。初代・岩国屋惣兵衛は、多くの人々に地元である宮島へ訪れてもらいたいという想いから、もみじ谷を開拓し基礎を整え、そこに茶屋を開いた。これが岩惣のはじまりである。現在に続く岩惣という宿の名前も、この岩国屋惣兵衛という名にちなんで付けられた。

この歴史ある岩惣の7代目女将である岩村玉希氏は、一般のお客様はもちろん、数多くのロイヤリティをおもてなしする中で、旅館という仕事の真髄、そしてその面白さに徐々に惹かれていったという。

「この仕事をしていると、とても多くの方と接する機会をいただきます。海外からのお客様も多く、宮島にいながら世界中の様々な人と繋がり、日本文化の素晴らしさをお伝えできる。日本の方に対しても、近年では日頃なかなか触れることのできない日本文化を感じていただける空間をご提供できる。この仕事の面白さはそんなところにあると感じます。」

岩惣を利用した人々にとって『日本』を知るきっかけが岩惣となる。単なる宿泊施設ではなく、日本の文化を体験し知ることができる空間、そんな役割を担うのが岩惣なのだ。

歴史が育んだもの

世界遺産、日本三景、国立公園など、様々な肩書きを持つ宮島は、自然や建物の制限など、島全体で景観が守られている。船で本土から宮島へ渡ってくると、自然も建物も、すべてが『日本を感じる空間』。宮島は、まるでテーマパークのように非日常を感じる島とも言える。

中でも岩惣が位置する一帯はもみじ谷公園と呼ばれ、幽玄な自然を楽しめるスポットとして有名。春から夏にかけては緑が清々しく、秋の紅葉は言うまでもなく絶景である。そんなもみじ谷に溶け込むように佇む岩惣の宿は、四季折々の自然を五感で感じることができる。

「岩惣の建物は日本の伝統建築や木造建築で建てられています。2018年春には、はなれのひとつである『洗心亭』を安全・快適にお過ごしいただけるよう改装いたしました。こちらももちろん、純日本旅館の佇まいを楽しんでいただけます。そんな和の設えのなか、懐石料理を茶托で楽しんでいただき、浴衣を着てお布団で休んでいただく。そうして本物の日本文化・和の形式を体験していただき、日本をより深いところから知っていただきたいと願っています。」

景観、建物や設備、食事、おもてなし、過ごし方……岩惣で過ごす時間のすべてが文化の体験となる。そしてそれは一朝一夕に作り出せるものではなく、歴史を重ねたからこそ育まれたもの。その美しさや時間の流れこそが、岩惣が提供するサービスの真骨頂と言えるのかもしれない。

宮島の深い魅力を伝えていく

諸外国からのゲストも多い岩惣では、口にできない食材がある方の食事のリクエストにも可能な限り細やかに応えている。老舗旅館として、あくまで懐石料理の形式が崩れない範囲での対応とのことだが、伝統を受け継ぐ一方で時代に合わせて変化を受け入れてきたことが、岩惣が160年もの長きにわたって続いてきた理由のひとつと言えるだろう。

そんな岩惣は、今後どのような変化をしていくのだろう。今後の展望について尋ねた。

「ここ最近、宮島には新しいお店が増え島全体が活気づいています。しかし、年間来島者400万人に対して宿泊者は30万人ほどに留まっています。宮島には本当は、時間をかけて観光していただいたり、宿泊していただかなければ体験できないものがたくさんあります。有名な観光名所だけではなく、宮島のもっと深い魅力を知っていただけるような体験をつくっていきたいと思っております。」

歴史、文化、日本ーー。そんなキーワードが多くみられた今回のインタビュー。「目には見えないものをご提供しているという意識があります。」と岩村氏は語る。

旅館とは媒介であり、その本質は『文化を継承し、伝え続けていく』ということにあるのかもしれない。その使命を、初代・岩国屋惣兵衛の頃から160年の長きにわたって脈々と受け継いできた岩惣。日本人ですら日本の精神が薄れていくように思われる昨今、岩惣の役割はこれからも大きく重要なものであり続けるだろう。

旅館未来

本物の日本を体験できる空間を受け継いでいく

働き方改革の流れもあり、これから時代は旅館にとって厳しいものになっていくと思われます。もちろん時代に合わせて変化していくことは必要ですし、岩惣も長い歴史の中で変化を続けてまいりました。しかしその中でも、自分たちの想いをきちんと宿に反映させ、日本旅館の形を失わないようにうまく時代にあわせて変化していくことで、旅館の未来はつくられていくのではないでしょうか。

岩惣は創業以来、家族経営で続いてまいりました。これまで先代達が受け継いできた創業者の想いを真に継承し、次の世代へと渡し、これからも旅館の未来を紡いでまいりたいと思います。

取材先情報

会社名(店舗名)みやじまの宿 岩惣
ご担当者様岩村 玉希
所在地廿日市市宮島町もみじ谷
電話番号0829-44-2233
営業時間9:00〜21:00(電話受付時間)
業務内容宿泊業
サイトURLhttp://www.iwaso.com/
取材時期2018年

※ このページ内の情報は、取材当時のものであり最新のものと異なる可能性があります。

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